ある発達障害を専門に診ているというクリニックの話を聞いて驚いた。
そのクリニックでは、思春期以上か、大人の患者さんしか診ていないというのだ。
それはあり得ないでしょ!
例えば、自閉スペクトラム症のお子さんがいたとして、まずその一次特性(=一次障害)に沿った療育を幼児期から始める必要があるのは当然である。
そうして将来の自立年齢に向かって、本人には徐々に、自分の特性を知り、自分の特性との付き合い方や、その特性を持った上での他人や社会との付き合い方を身に付けて行っていただくことになる。
また同時に、親御さんにも徐々に、我が子の特性を理解し、その特性との付き合い方やその特性を持った我が子が他人や社会とどう付き合って行けば良いかも学んでいただくことになる。
その過程で親御さんには、自身の今までの人間観、教育観、人生観、価値観などの見直しも必要になってくる。
そんなことを、子どもが幼児期、学童期、思春期、成人期と成長して行くにつれ、それぞれの成長段階に応じて行っていく必要があるのだ。
幼児期から成人期=自立するまで、継続的に(できれば中断なく)やることは山ほどある。
そういった適切な療育を幼児期から受けられなければ、いろいろな環境との間で不適応を生じて、幼児期から怒られ続ける、学校でも叱られ続ける、友だち、集団ともうまくいかない、いじめられる、不登校になるなどという体験から、さまざまな二次障害が生じて来るのは必定である。
そうなってからの受診や療育、思春期以降になってからの受診や療育では、一次障害、二次障害の両方にアプローチしなければならず、その間に誤った学習もしているため、それらを解除してから学び直すとなると、さらに大変である。
思春期以降の診断名としても、適応障害やうつ病とだけつけられている場合も多いが、それらは二次障害であって、その根底に一次障害としての発達障害があるかどうかを観抜かなければ、治療方針は大きく異なることになる。
一次障害の発達障害を放置しておいて、二次障害だけ治療することができるはずもない。
二次障害として起こり得る精神障害としては、適応障害やうつ病の他に、不安障害、解離性障害、摂食障害(食行動症)、強迫性障害、物質関連症および嗜癖症、パーソナリティ障害など、多岐に渡る。
それらについても、一次障害に発達障害があるのかないのかで治療のアプローチが変わって来るのは当然である。
それなのに、思春期以降になって、あるいは、大人になってから急に治療を始めようというのであれば、苦戦するのは当然である。
だから、とにかく早く専門外来を受診しましょう、できるだけ早い(幼い)うちに。
そして運悪く、思春期以降、大人になってから受診する場合には、医療機関を選んで、可能な限り、療育的アドバイスが充実したところにしましょう。
そして医療機関の医師、臨床心理士の方々に申し上げたいのは、もし発達障害の臨床に関わるのであれば、いきなり思春期以降や大人になってからの臨床は、二次障害などが重なって相当に応用編なのだな、という認識を持って、可能な限り、幼児の臨床からの勉強を、それも検査・診断だけでなく、療育についても是非学ばれることを強くお勧めしたい。
幼児期からちゃんとした療育を受けながら成育した場合はどうなるのか。
幼児期からちゃんとした療育を受けられずに二次障害(中には三次障害も)が重なって行ったらどうなるのか。
そこらを観通せると、現在の位置付けが観え、本人に合った治療・療育方針を立てやすくなる。
自閉スペクトラム症の診断基準を満たす方だけでなく、その傾向=自閉スペクトラムを持った方々も急速に増加している。
それが本当に実数が増えたのか、実は元々いた方々がちゃんとした眼で観られるようになっただけなのか、よくわからないが、とにかく、少しでも生きづらい人生を、しんどい人生を送らないで済むように、一日でも早く、そして、本人に合った治療・療育につながるような世界になることを願っている。