2016(平成28)年9月4日(日)『ごちそうさまでした』
自宅から歩いて5分のところに小さなスペイン料理屋があった。
住宅街の中のビルの2階、テーブルとカウンター10席あまりのスペースをマスター一人で仕切っていた。
青山の店で働いていたというマスターの腕は冴え、出て来る料理がどれもこれも美味い。
お世辞抜きで美味い。
そして、毎回選んでもらうワインが美味い。
掛け値なしに美味い。
そして安い。
こちらがもうちょっと値段を上げた方が良いんじゃないかと思うくらい安い。
そして何故かいつも空いている。
来ないヤツは馬鹿なんじゃないかと思うほどである。
確かに、ロケーションは余り良くないかもしれない。
見るからに宣伝の上手でなさそうなマスターである。
空いているのを幸いに、私はほぼ週一ペースで通っていた。
そして“その日”は、急に訪れた。
「店を閉めることになりました。」
えっ!?
しかも、明後日閉めるという。
急遽、予約を入れ、二日後も訪れた。
最後まで料理は全て美味かった。
開業の形態や姿勢が自分に近いこともあり、親近感を感じていたので、つくづくと思うところがあった。
それは、ちゃんとやっている人はちゃんと知られる必要がある、ということである。
それは世俗的に有名になるということではなく、必要としている人にちゃんとつながるためである。
幸せな気持ちになれるあの料理が今後食べられなくなるのは返す返すも惜しい。
再会を期して店を後にした。
八雲も改善すべきところは改善しよう。
八雲はすぐに閉めることはないと思うが、既に逢っている人とも、これから逢う人とも、もっともっと逢って話してから死にたいと思うから。