2018(平成30)年3月1日(木)『自己一致』
子どもの心理療法を専門とする熱心な臨床心理士。
彼女が日本で開催される国際学会での実践報告講演者の一人に抜擢された。
国内外の専門家に顔と名前を知られ、評価を得るには絶好のチャンスである。
しかし、その学会の開催日を聞いて驚いた。
東京の専門病院で、幼い娘が眼の手術を受ける当日に当たっていたのである。
一年以上順番を待ち、諸条件をやりくりしてようやく決めた手術日だった。
今さら変えようがない。
娘の顔が浮かぶ。
「ママもずっと傍にいてくれるよね。」
彼女は迷わず決断した。
いや、正確に言えば、一瞬でも迷ったことを恥じた。
ここで私が学会の方を取ったら、日頃の私の臨床姿勢と矛盾することになる。
何が一番大切かを間違わないで子どもに関わることが彼女の心理療法の信条であった。
私は娘を愛している。
そして自分を指名してくれた教授に事情を説明し、講演を断ったのであった。
どうやったら世俗的評価を得やすいかに走って、名前を売り、地位を得たがる人間がいる一方で、世の中にはこういう人もいるのである。
そして彼女を指名した教授は、大変残念に思いながらも、益々次のチャンスを彼女に与えたいと思うのであった。