今までの『葉隠(1)』『葉隠(2)』『葉隠(3)』『葉隠(4)』「葉隠(5)」『葉隠(6)』『葉隠(7)』『葉隠(8)』『葉隠(9)』『葉隠(10)』『葉隠(11)』に続いて、今日は『葉隠(12)』(下・聞書第十・一○五)。
増上寺において行われていた法事の最中、
「諸役人大勢列座の前を(内藤)和泉守(いずみのかみ)通られ候(そうろう)が、(永井)信濃守(しなののかみ)前に成り、『信濃守覚えたか。』と詞(ことば)をかけ、首打ち落され候。信濃守も小さ刀に手を懸け、すこし抜き懸けられ候由(よし)。その時傍(かたわら)に居り候人、抜打に和泉守の腕を峯打にて、脇差を打ち落され候。また一人立ち上り、『二の目を仕(つかまつ)る。』と聲(こえ)をかけ、和泉守の後に廻り、鰓(あぎと)に手をかけ引き立て投げ伏せ、懐中縄にて搦(から)め、勝手に引き立てられ候。…即刻上聞(じょうぶん)に達し、その夜青松寺にて和泉守切腹なり。」
(諸役の方々が大勢並び座っている前を内藤和泉守が通っておられたが、永井信濃守の前に来たところで、「信濃守、思い知れ!」と言葉をかけ、信濃守の首を斬り落とした。信濃守も小刀に手をかけ、少し抜きかけていたとのこと。その時、そばにいた一人の武士が刀を抜いて和泉守の腕を峰打ちにして、(和泉守が持っていた)脇差を打ち落ちした。またもう一人の武士は「二番目は私が致しましょう。」と声をかけ、和泉守の後に回り、顎に手をかけ、引っ張って投げ倒し、懐に持っていた縄で縛り、そのまま引っ立てられて行った。…すぐに主君の耳に入ることとなり、その夜、青松寺にて和泉守は切腹となった。)
『葉隠』では、この一件だけでなく、何かの行事の最中、いきなりある武士がある武士を斬り殺す、特に斬首するエピソードが出て来る。そんなことをすれば、良くて切腹、悪くすれば一族郎党にまで難が及ぶことは百も承知のはずなので、余程腹に据えかねた、覚悟の刃傷沙汰(にんじょうざた)と思われる。
恐らくは武士の面目を丸潰れにされるような出来事があったのであろうが(その仔細は書かれていない)、耐えて耐えて耐えて最後に何もかも投げ捨てて爆発するところが、いかいにも武士と言えば、武士らしいところである。
『葉隠』の文調も決して和泉守を責めるようにはなっていないところに、『葉隠』の隠れた意図が感じられるのである。