今日は令和7年度4回目の「八雲勉強会」である。
近藤章久先生による「ホーナイ派の精神分析」の勉強も、1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目9回目10回目11回目12回目13回目に続いて14回目となった。

今回も、以下に参加者と一緒に読み合わせた部分を挙げるので、関心のある方は共に学んでいただきたいと思う。
入門的、かつ、系統的に学んでみる良いチャンスになる。
(以下、原文の表記に多少古いものも含まれるが敢えてそのままに掲載した。また斜字は松田による加筆修正である)
※内容も「治療」に入り、終盤となってきた。折角読むからには、それが狭い「治療」の話に留まらない、人間の「成長」に関わる話であることを読み取っていただきたい。

 

A.Horney(ホーナイ)学派の精神分析

5.治療

b.神経症的諸傾向の観察と理解

患者の神経症的傾向は、先に述べた様に、最初の面会の時から、囚(とら)われない観察と理解の眼をもってする時は、色々な患者の表現を通じて明らかになって来る。このことは、いよいよ分析が始まってからでも同様である。
患者が自分の症状、その他の事を語る態度の若干の例について先に述べたが、その語り方の順序や、強調の仕方、感情をこめたり、また繰返して述べる表現など、治療家に教えるところが多い。雄弁に自己の知識や才能を強調したりするのは、自己拡大型を暗示するし、単純に何か機械的な感じで整然と準備した様に述べるものは、自己限定型を疑わさせられるし、自分の症状の状態を哀れっぽく繰返し述べるものには、自己縮小型を考えさせられる。
同様に、患者が臥床(がしょう)の位置をとることに反応する仕方も注意されてよいことである。
ある患者は、臥床を拒否して言う。「私は無力にされ、侮辱される気がする」と。他の患者は好んで臥床したがる。時間に関してもそうである。或る患者は時間前30分分位も早く来る。又或る患者は遅く来て治療者を待たしたがる。時間が終ってもグズグズする患者もあるし、時間一寸(ちょっと)でも過ぎると分析者に謝罪する患者もある。
この様な患者の様々な態度に、それぞれの性格の内的傾向を反映している。それが、どの様なものの表現であるか、患者の理解の為に治療家は慎重に考察すべきものであろう。
自由連想が行われる時にでも、連想に当って或る患者は饒舌(じょうぜつ)であり、休むことなく語る。しかし、その語ることが表面的なことであったり、余りにも整然として統制がとれている時、その様な連想の態度が患者にとって、どういう意味を持っているか考えねばねるまい。ひょっとすると自由連想が、患者の心的現実の率直な ー 勿論その時に於ける可能の限りではあるが ー 反映というようりも、その隠蔽(いんぺい)に役立っている場合もあるからである。
或は又、自由連想を嫌がったり、困難を示す患者もある。勿論、自由連想そのものが、感情や思想の自由な吐露と言う、日常的な表現と異る性質をもっているから、困難であることは当然であるが、それと別に、ここにもそれぞれの神経症的性格の shoulds とか claim が表現されてはいないだろうかと問う必要がある。
同様なことは夢に対する態度についても言える。夢なんか馬鹿らしいと一笑にふするものもあるし、一ぺんも夢なんか見たこともないと言うものもいるし、記憶していないと言うのもあるし、又夢ばかり語りたがるものもある。
これらは参考にあげた例であるが、自由連想や夢そのものの内容から得られる理解と共に、治療家が患者の神経症的性格の構造を理解する手引きとなるものは言語的のみならず非言語的な表現の中にも無数に存在する。

 

近藤先生が懇切丁寧に神経症的人格構造の三つの型 ー ①自己縮小的依存型、②自己拡大的支配型、③自己限定的断念型に即して例示して下さっていますが、そもそものホーナイにしても、本当はこんな分類は要らなかったのです。
ホーナイや近藤先生においては、そんな知識不要で、クライアントから瞬時にライヴで感じ取っていました。
そうなのです。クライアントの言動の背後に何かおかしなもの=神経症的なものが動いていることをその場で感じ取れるか否かが、実際的な勝負なのです。
これらの三つの型は、言わば、ホーナイが、当時の精神分析医や知識人たち、そしてアイビーリーグ出身の“エリート”弟子たち(頭は良いが、感性の鈍い人たち)への説明用に作った体系に過ぎません。
しかし、いくら知識があっても、鈍ければ、結局、観抜けません。
近藤先生をして「ホーナイの弟子たちはIQは高いんだけど、肚Qが低い。」と言わしめたものは、そんなところにありました。
頭で「考える」のではなく、肚で、体で、存在で「感じる」こと。
よって、後に近藤先生も『感じる力を育てる』という本を書くことになります。
従って、この『ホーナイの精神分析』の勉強も、まずは「感じる」ことから。
そうして、その「感じ」を後から整理するためにこの体系がある、という順番を忘れないでいただきたいと思います。
 

 

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