今までの『兵法家伝書(1)』、『兵法家伝書(2)』、『兵法家伝書(3)』『兵法家伝書(4)』『兵法家伝書(5)』に続いて、『兵法家伝書(6)』をお届けする。
「一 水月(すいげつ) 付(つけたり) 其(その)影の事
右、敵と我との間に、凡(およ)そ何尺あれば、敵の太刀(たち)我(わが)身にあたらぬと云(い)ふつもりありて、その尺をへだてて兵法をつかふ。此(この)尺のうちへ蹈(ふみ)入り、ぬすみこみ、敵に近付(ちかづ)くを、月の水に影をさすにたとへて、水月と云ふ也(なり)。心に水月の場を、立(たち)あはぬ以前におもひまふけて立(たち)あふべし。尺の事は口伝(くでん)すべし。」
(水月 水面(みなも)に映る月の影のこと
右のことは、敵と自分との間に、大体何尺(1尺=約30cm)あれば、敵の太刀が自分の体に当らないという見当を持って、その何尺かを離れて兵法を使うのである。この何尺かの中に踏み入り、(敵に気づかれないように)距離をかすめ盗って、敵に近づくことを、月影が水面に映ることに譬えて、水月というのである。心の内に、月の影が水面に射す様子を、立ち会う前から思い描いておいて、立ち会うこと。この尺のことは(書いたものによってではなく)口頭で伝えるように。)
一回読んだだけでは、わかりにくいかもしれない。
「月影が水面に映る」とは、遠くにあると思っていた月が、いきなり近くの水面に映るように、敵の太刀が届かないところにいたのが、スッと相手を斬ることのできる間合いに詰め入ることを指している。
ある文献によれば、立ち合いで実際に人を斬るのはなかなか大変で、十分に間合いを詰めて刀を振り下ろしたつもりでも、実際には腰が引けてしまい、かなり離れたところで刀を振り下ろしてしまっているのだという。よって、刀の鍔(つば)で相手を斬るくらいのつもりで、思い切って踏み込まないと、人は斬れないそうである。
月の影がスッと近くの水面に映るように踏み込んで斬る。
「水月」に必要なのは、その踏み込み切る“覚悟”に尽きる。