妻が続けた。

仏教で「謗法(ほうぼう)」ってあるよね。
(「謗法」とは、誹謗正法(ひぼうしょうぼう)の略で、一般には、仏の正しい教えを謗(そし)ること、悪く言うこと、非難することなどを指すが、その中には、よくわかっていないくせに自分の考えで仏の教えを説くことも含まれる。謗法は五逆罪(①殺母(せつも)、②殺父(せっぷ)、③殺阿羅漢(せつあらかん)、④出仏身血(しゅつぶっしんけつ)、⑤破和合僧(はわごうそう))と並ぶ仏教の大罪とされる)
サミーがもし禅を「趣味」でやっているとしたら、少なくとも本気で「求道」している人たちに講義や講演で仏教を説くことがあるとすれば、それは「謗法」になるんじゃないかな。
私はあなたにそんなことをしてほしくない。

「趣味」どころじゃない、「謗法」か。
最低だな。
彼は深い溜め息をつくしかなかった。

二人には近所によく行く町中華の店があった。
今、飲食業が大変な中、老夫婦でなんとか切り盛りしてやっていた。
それでも旦那の深酒が過ぎたり、競馬ですったりして、お客の前でもよく夫婦喧嘩が始まった。
褒められたものではないが、老夫婦はそれを隠さなかった。
少なくとも良い格好をしなかった。

あの二人は深い精神世界のことなど、ひとことも言わないけど、遥かに正直に一所懸命に生きてる気がする。

絞り出すような声でそう言った妻の眼からも、うなだれた彼の眼からも、大粒の涙がぽたぽたと落ちた。

そして、根が真面目な彼は、言い逃れも、逆ギレもせず、長い沈黙の中で猛省した。

オレは良い格好をして、わかったようなことを言っていた。
そしてそれを死ぬほど情けないとも思ってなかった。
こころを入れかえるよ。
これからもくだらないことをやらかしちゃうと思うけど、少なくともそんな自分を情けないと思い、乗り越えて行きたいと願うよ。
口先でなく、少しでも生きざまで示せるように。
言ってくれてありがとう。

そして二人で泣いた。

彼女が覚悟を決めてそこまで言い出すのには、わけがあった。
その数日前、彼女の妊娠がわかったのである。

サミーにはホンモノの父親になってほしかった。

 

 

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