親のネグレクトから、乳児院、児童養護施設で育って来た女性。
施設を退所してからひとり暮らしを始めたが、いつも寂しくて心許(もと)なくてしょうがない。
友だちと面白おかしく騒いでも、祭りの後は一層寂しくなり、
体目当ての男はすぐに寄って来たが、性欲を満たせばいなくなり、余計に寂しさが募る。

そしてようやくできた真面目な彼氏。
同棲を始め、誠実に愛してくれる。
それでも、不意に寂しくて寂しくてしょうがなくなったとき、彼にせがむ。

「抱きしめて。抱きしめて。抱きしめて。」

しかしいくら強く抱きしめてもらっても、それを感じるのは皮膚の表面まで。
彼女の皮膚の中の寂しさと心許なさは少しも変わらない。

「遠い。遠い。遠いの。」

彼としては、力いっぱい抱きしめるが、これ以上どうしていいのかわからない。

そんなことを繰り返していたある日、二人は近所の神社に初詣に出かけた。
小さな神社で人出は少なく、本殿で自分の寂しさ、心許なさについて一所懸命に祈る。

「あ、沁みる。」

ふと本殿から境内に降り、冷えた空気の中で陽射しを見上げる。

「ああ、沁みる。」

沁みたのは陽射しではない。
自分を自分させてくれる力、自分の存在を支え、生かしてくれている働きを、彼女はふと感じたのである。
これがないと、皮膚より中には沁み込まないのだよ。

彼には、彼女を礼拝(らいはい)することを教えた。
そして、彼女の生命(いのち)に手を合わせ頭を下げる気持ちで彼女を抱きしめることを教えた。
また、彼女には、鏡に映った自分を礼拝することを教えた。
自分の生命(いのち)に手を合わせて頭を下げることを教えた。

そんなことをしても、一回や二回では何も変わらないけれど、三日が三週間、三カ月が三年、一所懸命に続けてみると、沁みてくるんですよ、これが。

もう遠くないよ。
あなたの中に沁みていく。

 


 

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