古谷光敏の漫画に『ダメおやじ』という作品がある。

その題名の通り、全く冴えないサラリーマンおやじの話である。
会社でも見下され、蔑(さげす)まれるだけでなく、家でも妻・冬子(通称オニババ)からひどい虐待を受け(今なら間違いなくDVである)、娘(雪子)や息子(タコ坊)からもバカにされている。
余りの辛さから帰宅する度に「神さま、お願いです。この戸のむこうに平和がありますように」と祈るありさまであった。

漫画はその後、12年にも渡る長期連載となり(アニメ化もされた)、ダメおやじも大出世を果たしたりするのだが、私にとっては、初期の虐(しいた)げられていた頃のダメおやじの話が好きである。
その中でも、スズメの涙のようなお小遣いを貯め、ダメおやじが念願の中古車を買う話があった。
朝早くに車で出勤し、出社前のひととき、車内で魔法瓶に入れたインスタントコーヒーをコポコポと魔法瓶の蓋に注いで飲む。
そのときのダメおやじの表情と「ふう。」というひと言が今でも脳裏に焼き付いている。

誰からも非難・攻撃されず、安心して自分が自分でいられる場所。
やっぱりそれは、すべての人にとって必要なのである。
そりゃあ、欲を言えば、自分が自分であることが受け入れられ、大切にされる場所があれば、それに越したことはないけれど、それを望むのは夢のまた夢。
肯定されなくても良いから、せめて否定されない場所がほしいのである。

当時、小学生~中学生であった私が、そんなダメおやじの話に共感するのには、それだけの訳があったのだ、と今になってわかるのでありました。

 

 

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