往時、近藤先生のところに通っている精神科医が、同じ医局出身者の中に十人以上いた時期があった。
みんな、一度通い始めると何年も通っているので、先輩医局員の中には「君たちは近藤先生に依存し過ぎじゃないか。」と言って来る人もいた。

そもそも教育分析自体が、何年もかかるのは当たり前であるし、そう言って来る人たちの大半が、自分と向き合うのが恐くて教育分析から逃げている人たちばかりだったので、気にもならなかったが、少なくとも私の場合、いつまで通うのかと訊かれれば、可能な限り長く、と即答したであろう。
何故ならば、
人間の真実、この世界の真実を本当に知っている人物から直接に教えを請うことのできる貴重な機会をわざわざ逸するわけにはいかなかったからである。

そういう意味では、最早、教育分析などといった狭く浅いものでもないし、師資相承(ししそうじょう)の伝統は、精神分析以前からある、人類の系譜であった。

実際、師が遷化されたとき、情緒的に寂しくはあったが、涙も出ず、気持ちが全くブレなかったのは(それこそがまさに依存していなかった証拠である)、大事なものを継承させていただいた実感があった。

しかし実はそれは、すべての人間に最初から与えられているものであったことに後になって気づいた。
既にあったものに後から気づく。
そういうこともまた成長のひとつの形であった。

師に『その道は開けていた』という題名の著書があるのももっともなことだと思う。


 

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