「母親になることは女の人にとって、すばらしい経験だと思います。私も医師として、何べんか分娩の際に立ち会ったことがありますが、そんな時いつも感じるのは、赤ちゃんを生んだときの女の人の顔くらい輝かしいものはないということです。夫が側にくると、『あなた』と言いながら夫を見つめるその顔は輝いて、ほんとうに大きな仕事をなしとげたという、満足感と歓びを感じているように見えます。それにつけてもあとになって、子どものことについていろいろと思い悩む時に、この時の心からの歓びを思い出してほしいと思います。
子どもにとって、特に幼児にとって母親は絶対のものです。母親の胸の中で膝の上で、お母さんの肌に触れつつ安心感を覚え、情緒的にも安定した子どもとして育っていくのです。…
人間がこの世に生まれてきて、はじめに母の懐に抱きとられた時のあの安心感と喜びは、いつまでも懐かしいふるさとであり、心のよりどころです。大きくなって世の中に出て、苦しいことにあった場合でも、もう一ぺんこの気持に帰って、また出直すことができます。このいちばんのもとになるものは、この頃の実感が基礎になっているのです。…
子どもを育てることに歓びを持つ母親の許で、はじめて子どもは安定感を持ち、それこそ伸びやかに育っていくわけです。そうやっていると、子どもと母親との関係は非常に安定したものになります。こうした安定感はまず何よりも、人間の一生の中でのいちばん基本的な財産だと思います。
それではこの時代に父親はどんなふうな協力ができるでしょうか。…幼児は母親とはもう一心同体のような感じですから、母親の感じるものを全部感じとるのです。ですから父親が ー 父というよりもこの時代はむしろ若い夫と言った方がいいでしょうが ー 喧嘩したり心配させたり、焦々させたりすると、それがたちまち子どもに影響します。子どもが不安になり泣きわめいたりして、その安定感、安心感にに影響します。ですからその時期の男性の役割は、母親が子どもに安心感を与えられるように、夫として自分の妻に安心感を与えることが大事なのです。まずこれが、若い夫が父親としてしなければならない第一のことです。まあ、二歳から三歳までに「それが果されていれば、まず、建築でいえば、需要な礎石が造られたと言えましょう。」(近藤章久『感じる力を育てる』より)
実際の子育ての中で思い悩むことは多々あるものです。
そんなときいつも、近藤先生のおっしゃっている通り、その子が生まれたときの体験、感覚を是非思い出していただきたいと思います。
生命(いのち)を授かること、出産することは、一種の神事であり、神業(かみわざ)だと私は思っています。
その大きな働きの中にお母さんがいる。
だから出産のときのお母さんの顔はあんなに神々(こうごう)しいのです。
あのときの体験を感覚をどうか大切にして下さいね。
そうして、お父さん。
ここで近藤先生は、夫が妻に安心感を与えることの重要性を強調しておられます。
その言葉を変えますと、それは妻を愛してほしい、ということに他なりません。
夫は妻を愛し、子どもを愛する。
そして妻は夫を愛し、子どもを愛する。
それさえあれば大丈夫です。