「一般に本能というものは食欲にしろ、睡眠にしろ、あるいは性欲にしろ、あるのが健康ではありますが、その欲求を充足する場合には、おのずから社会的なきまりというか、マナーがあります。…そして、食欲とか睡眠欲の場合は、小さいときから訓練を受けています。…ところが性に関してだけは、性の欲求がかなりあとの思春期になって出てくるものですから、それに関するしつけは全然できてないわけです。…言いかえれば、子どもたちは自分一人で、この問題についていろいろな試行錯誤をしなくてはならないのです。…
女の子の場合は、女性ホルモンが活発に出てきますと月経という現象がありますが、この頃から女の子は変わってきます。急にふっくらとして女らしく、なめらかな曲線が出てきます。…つまり女の子にとっては一般的に、成熟していくことが喜びなのです。性ホルモンの作用は、女性がもっぱら美しくやさしくなるように出てきます。
ところが男の子の場合には、極めて現実的には性欲としてはっきり出てきます。自分の体の中に、何だかわからないが、つき上げる衝動として荒々しく突然出てくるのです。
このような差異を頭に置いて…この時期によくある恋愛感情についてふれてみますと…恋愛を、心理的な側面と肉体的な側面とに分ければ、一般的には、女の子の方には心理的な面が強く、男の子には肉体的欲求の面が強いと言うことができます。このために、よく…行きちがいが起きるのですが…大人たちは、男の子と女の子の思春期におけるこうした点をよく認識した上で、それに対する教育的な準備を…するべきではないでしょうか。
もとより、若い生命ですから、男の子も女の子も…経験を通じて学び、成長していくことと思いますが、時として女の子には肉体的にも精神的にも大きな打撃となることが多いのです。…
また、この時代の男の子の問題に対して、母親だけではどうにもならないことがあるわけで、とかく、叱責するとか、見て見ぬ振りをするとかに終りがちですが、ここは一つ、父親が男性の先輩として暖かく、明るい態度で、誰しも青春の日に陥り易い傾向であること、それに耽りすぎないようにすること、エネルギーが余ったら体を動かして発散したらどうかなど、大らかに話して頂けたらどうかと思います。…
そして、この時代を乗りきって成長していくために…何よりも、自分の目標や中心をはっきりと持っていることが…必要だと思われます。…自分の生活に目標があり、中心がある時は、性の問題は少なくとも第一次の問題でなくて、第二次、第三次の問題となっていきます。もちろん、その目標や中心となっているものは、自分がほんとうに必要と認め、自分の内部感覚がほんとうに求め、興味を持っているものです。こうした目標や中心があると、それに対してエネルギーが向けられ、狭い意味での性的対象に向けられるエネルギーが少なくなります。…
いずれにせよ自分が本気で取り組めるものあれば、それはそれぞれの生命を生かし、成長させるものです。そればかりでなく、同じ目標や同じ興味を持つ仲間を次第に発見して、お互に刺激し合い、はげまし合い、楽しみ合っていく友情を発展させることができて、人間関係の上からも、場合によっては各人の生涯にわたる大きな収穫を得ることができるのです。
もとより、こうした中でも性的な衝動は自然にありますが、自分の生活に目標や中心がある場合、それと性の衝動とのはげしい葛藤の中で努力し苦闘することで、次第に鍛えられ、たくましく成長し、やがてこれが自分なのだ、自分はこう生きて行くのだという自覚が生まれて、ほんとうの大人として生きていくことになります。
このように性の問題は、青春期をゆるがす大きな問題でありますが、同時にそれは、若い生命の発展と成長のための機会となり、自己形成への飛躍台にもなる積極的意味を持っているものです。この時代の苦しみを通じて、本気に自分の取り組める興味や関心の対象を発見させる方向へ助力することに、この時代の親の役割があると思います。」(近藤章久『感じる力を育てる』柏樹社より)

 

男女における性の発現の仕方の違いは、近藤先生が度々強調されて来たことです。
現代の性教育においても、医学的なことは説明されていても、男女が自分の性の発現の仕方の特徴、異性の性の発現の仕方の特徴、さらにその心理的特徴について、ちゃんと教育されているとは言い難いと思います。
そこを是非、お父さん・お母さん方、先生方、あるいは、年長の先輩方から思春期の子どもたちに教え伝える機会を設けていただきたいと思います(そのためにはもちろんお父さん・お母さん方、そして、年長の先輩方が真実をしっかり理解している必要があります)。
そしてその上で、性の問題をただの問題として扱うのではなく、性欲に支配されることなく、本来の自分を逞しく生きて行けるようになるための踏み台として活用して行くところに、事の本筋があるように思います。
そうすれば、この性欲を、名誉欲や金銭欲など他の欲望に置き換えても、当てはまる、即ち、どのような欲望にも支配されず、この人生において本来の自分を生きて行けるようになる、という大切な教えとなるのではないでしょうか。

 

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