今、金木犀の花が香る。
香りが先で、あれ、どこで咲いているんだろう、と次に花を探す順番が、秋の楽しみのひとつでもある。
同じことが梅の花においても言える。
香りが先で、あたりに梅の花を探すのは、あたかも待ちかねた春を探すような風情がある。
東京では、よくジャスミンの花も香る。
ジャスミンは金木犀と同じモクセイ科の花である。
種類によって花期が長いため、春~秋のどの季節とは言い難いが、香りの王様と言われるほど香りが強い。
その分、樹勢の強いジャスミンを敢えて小さく育てるという人もいるそうな。
香りを愛でながら、あまり強い香りは好まない、というのは、いかにも日本的である。
…などと思っていたら、別の匂いを思い出した。
かつて八雲の近藤宅で開業していた頃、夕方最後の面談が終って面談室のドアを開けると、はるか長廊下奥の近藤家の台所から、美味しそうな夕餉(ゆうげ)の匂いが漂って来た。
いつも丁寧に出汁を取って作られていた料理であったため、その香りは空腹の食欲をそそるだけでなく、作り手の愛と団欒(だんらん)を感じさせるものであった。
そこにはホームの匂いがあった。
(ホームとは、その人が安心してその人でいられる場所を指す)
あの匂いもまた、私のサイコセラピーを後押ししてくれていたんだなぁ、と今になって気がついた。