昔、ある連続研修(私が講師)に参加していた中年女性Aが、研修最終日の懇親会(酒席)で話しかけて来た。
先日、自宅の庭の剪定を業者に頼んだところ、職人が見習いのような若い青年を連れて来ていて、どこかで見たことがある顔だなと思っていたら、この研修にも参加している別の中年女性B(私にもわかる人)の息子さんだったという。
Bさんの息子さんは中学生頃から不登校やひどい家庭内暴力があって、ずっと引きこもっていると聞いていたから、ああ、働きだしたんだと思った、というのだ。
訊いてもいないのに、そこまでの内情話をしておいて、Aは「これ、誰にも言わないでね、先生。Bさんにも。」と付け加えた。
一気に吐き気がした。
聞きたくもない他人の秘密を一方的に垂れ流しておいて=相手に無理矢理秘密を共有させておいて、それをしゃべらせないように「誰にも言わないでね。」と最後に付け加える。
パーソナリティに問題のある人間が行う巻き込みの常套手段のひとつである。
こんなところでお目にかかるとは。
しかも、私に仕掛けて来るとは良い度胸である。
即座に(←ここが大事。沈黙すると暗黙の同意ということに持ち込まれる)
「私が何をしゃべるかしゃべらないかは私が決める。」
と言って正面から睨めば、退散して行くしかなかった。
こういう悪意の巻き込みは実によく練られていて、つい術中にはまりそうになるのだが、実は対策は難しくない。
「誰にも言わないでね。」と言われた瞬間に多くの人は嫌悪感を覚えるはずである。
そのときに黙らない。
そして整然とした文章で反撃しようとしなくていい。
ただ相手の眼を見て、嫌悪と軽蔑を込めて「ゲッ。」と言えばいいのである。
思いの強さが勝負を決める。
帰り際、別のテーブルに行ったAがまた別の研修担当者と話している声が聴こえて来た。
「同居している舅がわたしのことを時々色目で見るんですよ。これ、誰にも言わないでね。」
「ゲッ。」
何しに来てんだ、おまえ。
ダークサイドの世界に巻き込みに来ているのである。
闇は斬るべし。