「精神療法(心理療法)は、十年はやらないと何もわからないよ。」と近藤先生はよく言われていた。
その十年でも、毎週近藤先生の指導を受けながらの十年と、全くの我流か、せいぜいたまに研修を受けるくらいの十年とでは雲泥の差があろう。
また、面談頻度においても、以前「松田先生に10年間ご指導いただきました。」と言う人がいたが、その人は2〜3カ月に一度、気が向いたときにしか来られなかったので(昔は1カ月に1度以上面談に通うという決まりはなかった)「君は実質、1年くらいだね。」と伝えた。
そもそも、人間というものは非常に思い上がりやすいものであるから、ちょっとやったくらいで、なんだかできそうな気にすぐになってしまう。
しかし、はっきり申し上げて、実力はない。
そして、患者さんやクライアントに迷惑をかける。
「精神療法/心理療法って、こんなものなのか。」
失望(場合によっては絶望)を与えるのだ。
その罪は深い。
よって、精神科医や臨床心理士が本格的な精神療法/心理療法ができるようになるための教育は非常に重要である。
中でも、学生(大学院生)〜精神科医/臨床心理士になって最初の十年は、とても大切だと思っている。
どこで誰からどんな教育を受けるかで、その後のセラピストとしての力量に大きな差が生じる。
中には、かなりベテランの域に達しても、それまでの自分の精神療法/心理療法に疑問を持ち続け、意を決して、根本から学び直す人もいる。
その姿勢は大したものである。
いずれにしても、精神科医や臨床心理士が本格的な精神療法/心理療法を行えるようになるには、それ相応の修練と年月がかかることを肝に銘じておいていただきたいと思う。
結局ここにおいても、謙虚な人間ほど成長し、思い上がる人間ほど成長しない、という原則は、あてはまるのであった。