最近のデータによれば、日本の自殺死亡率は16.4(人口10万人あたり)だという。
他方、ある研究者が、精神科医の自殺率は約0.5%に上ると報告していた。
これを人口10万人あたりに換算すると、約500になる。
すると、精神科医の自殺死亡率は、日本人全体の約30倍に匹敵することになるのだ。
この数字をどう見るか。
よく言われることであるが、もともと心の病気に親和性を持った人間が精神科医になりたがるという背景がある。
なりたがること自体を止める理由はない。
しかし、ここからがいつも申し上げている話になる。
自分の心の問題とちゃんと向き合って、それを解決する(あるいは、それを抱えながら逞しく生きて行く)ことに成功した人は、臨床の現場に出ても、その経験を活かして、患者さんに貢献できる精神科医になれる可能性が高い。
しかし、自分の心の問題と向き合わず、未解決の問題を抱えたまま臨床の現場に突入すれば、自分の問題に加え、患者さんの問題も抱えるようになり、事態は一層深刻になる危険性が高い。そこで誰にもつながらない、誰にもすがらないのであれば、自殺の危険性が高まってもおかしくはない。
だから、同業者の方々に言っておきたい。
あなたの主治医を持った方が良い。
「主治医」という表現に抵抗があるのであれば「指導医」でもいい。本当は「人生の師」と言いたいところだ。
そういう存在は、「治療」という狭い意味ばかりではなく、人間的な「成長」という広い意味で、非常に重要である。
私自身も、もし近藤先生がいらっしゃらなかったならば、と思うとぞっとする。
少なくとも私は、近藤章久を得て、出生の本懐を感じることができた、と本気で思っている。
精神科医が自殺すると、患者さんへの影響は甚大である。
人生は生きるに値しないということを示すことになるから。
そうではなくて、精神科医は生を授かった意味と役割を果たす喜びを患者さんに示さなければならない、と私は思っている。