“You raise me up”という曲がある。
なかなか良い曲であるが、今日はその曲の話ではなくて、ギリギリのところにいる対人援助職者の話である。
昔、近藤先生のところに通って来ている一人の精神科医がいた。
わざわざ新幹線に乗って遠方から通われていたが、珍しい経歴の人で、ろくに初期研修を受けず(昔は義務ではなかった)、しかも早々に開業し(おいおい)、近藤先生のところに通って来ていた。
ありがちな話であるが、その人自身、かなりの神経症的問題を抱えていて、もし近藤先生のところに通って来ていなければ、開業できないどころか、本格的に発症し、かなりの治療を受けなければならないことになったであろう。
それが近藤先生の支えがあったお蔭で、本格的な発症もせず、それどころか、開業して診療までできていたのである。
そんな話が今も時々ある。
以前、当研究所に通って来ていた方でも、年輩になってから大学院に行き、臨床心理士の資格を取って、いきなり開業した人がいた。
昔は臨床心理士も、通常5年間くらいは精神科病院などの常勤で臨床経験を積まなければ、一人前とはみなされなかった(どの職種でも、いっちょまえになるには、修行5年は最低ラインであろう)が、今も臨床心理士には(公認心理師にも)資格取得後の研修義務がないため、開業はいつでも可能なのである。
しかしそれよりも、その人自身、かなりの神経症的問題を抱えていて、もし当研究所に通って来ていなければ、開業できないどころか、本格的に発症し、かなりの治療を受けなければならないことになったであろう。
それが当研究所に通っていたために、本格的な発症もせず、開業して心理療法までできていたのである。
こういう場合も、現時点では発症していないため、「情けなさの自覚」と「成長への意欲」があれば、当研究所の「人間的成長のための精神療法」を受けることができる。
そしてその後、文字通り、成長して発症の危険性を脱し、クライアントに貢献できるセラピーができるようになれば、それに越したことはない。
私もそれを応援している。
しかし、中には途中で自分の問題と向き合うことから逃げ、面談から脱落してしまう場合がある。
その場合が最も危惧される。
そのままでは本格的に発症する危険性があり、開業を続けるのも困難になる恐れがあるが、その時点では発症していないため、その人を止めるものはなにもない。
よって、私としても今後もどこかの精神科医につながるように忠告はしておくが、そうするかどうかは本人次第となる。
で、何故、掲題が“You raise me up”かというと、そういう人たちは raise up して(高めて)もらって、ようやく発症もせず、開業もできていたということである。
そのことを忘れないように。
Raise up がなければ、ゼロではなく、マイナスに転落する危険性がある。
そして誤解のないように最後に付け加えておくならば、その人を支えていた力は、決して“I raise you up”(「私」があなたを高めた)のではなくて、“He raises you up”(「私を超えた力」があなたを高めていた)のである。
私自身が私の力でその人を raise up していたと思うほど、私は思い上がってはいない。
そして私もまた raise up してもらって、今の仕事ができているのである、ずっと、ずっと、ずっと。
【附言】“You raise me up”の曲は、Celtic woman のものが有名であるが、タレント発掘番組により失業中のパン職人から歌手となった高齢男性 Martin Hurkens のものが今はお勧めである。