首都圏近郊の小さな都市に出かけることがあった。
所用のあった高台に建つビルの最上階レストランから、低い山に囲まれた市街地を見下ろすことができた。
山の緑に囲まれた中に、戸建て住宅やアパート、小さなマンションなどがたくさん建ち並んでいるのが見える。
ふと今まで出逢って来た、いろいろな人たちの暮らしが思い出された。
児童養護施設を十八歳で退所し、一人暮らしと仕事を始めたばかりの青年。
家事も仕事もまだ慣れないし、何にも自信はないけれど、一所懸命に生きている。
夫も娘も息子も発達障害という状況で、親の介護もしながら孤軍奮闘しているお母さん。
溜め息をついた後、深夜自分のためだけに淹れる一杯のコーヒーがやすらぎ。
長年二人だけで生きて来た夫を七年前に亡くしたおばあちゃん。
気丈に生きているけれど、「昨日会いたくて涙が出ちゃった。」と微笑(わら)う。
そんな暮らしが、きっとこの眼下の街の中にもある。
そして
臨床で出逢って来た人たちにも
八雲で出逢って来た人たちにも
やはり誰とも違う、その人だけの人生と暮らしがあった。
これからも、まぎれもなくここに人間が生きている、という人たちと出逢いながら、私もまた生きて行きたいなぁ、と思う。