医師法第十七条に
「医師でなければ、医業をなしてはならない。」
とある。
ここでいう「医業」とは、「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって(=業として)行うこと」とされている。
例によって、法的に正確を期する文言にしようと思うと、段々何を言っているのか、わからなくなって来る。
不正確さは承知の上で、ざっくり言ってしまうと、
「医師でなければ、診断、処方、手術をしてはならない。」
ということらしい。
今回、何故またこんなことを言い出したかというと、
「医師でなければ、診断してはならない。」
とよく言われるが、その法的根拠を知りたかったのである。
そしてその根拠が頭記の医師法第十七条にあるとわかったとしても、やっぱり気になるのが、本当に医師にしか診断ができないのか、そして、医師の診断がいつも正しいのか、という問題である。
後者については、かつである東大教授が退官時の最終講義で、自身の誤診率(14.2%)を発表したのを思い出す。
当然のことながら、どんな医師でも誤診率0%というわけにはいかないだろう。
だからといって、誤診していいということにはならず、一所懸命に正確な診断を期する必要があるが、私として気になるのはむしろ前者、本当に医師にしかし診断できないのか、という問題である。
私個人の経験からいうと、少なくとも精神科分野に限ったことを言えば、下手な医師よりも的確な診断をつけることのできる臨床心理士/公認心理師、看護師/保健師、精神保健福祉士/社会福祉士、作業療法士はおられる気がする。中には受付を担当している医療事務の人の中にも。
流石に、薬の副作用で精神症状が現れている場合や他の身体疾患のせいで精神症状が現れている場合(いわゆる症状性あるいは器質性精神障害という場合)などは、医師としての知識が必要になるだろう。
私個人としては、客観的エヴィデンス・ベースの診断基準ではなく、かつて「統合失調症くささ(Praecoxgefühl)」と言われたような、直観診断はあり得ると思っている。
但し、これも私の個人的見解だが、非医師の場合、「自分は診断できる。」と自負している人の“診断”は大体当てにならず、素直で謙虚な人の“診断”が当てになる場合が多い。
結局のところ、自我肥大的な人間の直観は当てにならず、我の薄い人の直観の方が当てになる、というところに行き着く。
そういうわけで、少なくとも私の場合、もし診断に迷うときがあったならば、直観の優れたスタッフに意見を訊いてみることにしている。
直観で診断して、客観的エヴィデンス・ベースの診断基準で裏を取る。
現時点での私の診断のスタンスはそんなところかもしれない。