昔、精神科外来にある若い男性がやってきた。
聞けば、子どもの頃からてんかんの治療を受けているが、なかなか発作が収まらないのだという。
また、障害に理解のある職場に一般雇用で勤めているが、その給料が少ないという。
さらに、障害年金ももらっているが、支給額が少ないという。
それでもうなんだかイヤになっちゃったというのだ。
私は答えた。
私には、てんかん発作を抑えることも、給料を上げることも、年金支給額を上げることもできない。
もし思い通りにならないことを、思い通りにしたいのであれば、それぞれ相談先が違う。
そうではなくて、もしあなたが、思い通りにならないことも受け入れて生きて行けるようになりたい、と言うのであれば、ここで力になれることがあるかもしれない。
長年、彼の置かれた状況が辛いものであることは想像に難くない。
思い通りにしたい、思い通りにならないと気に入らない、というのも、人情としてはよくわかる。
しかし、世の中は思い通りにならないことに満ちている。
それなのに、思い通りにならないとイヤだ、というのを、やっぱり小児的欲求というのである。
そうではなくて、思い通りにならないことを抱えながら生きて行く、それができることを大人の成熟というのだ。
それでも人間だから、凡夫だから、たまには誰かに思い通りにならない愚痴を誰かに聞いてもらうのもいいけどさ、二十歳を超えたら、一歩ずつでも大人になって行こうね。