ある舞台の話。
ひとりの少年が、不運にも親に愛されずして、児童養護施設で育った。
見捨てられ感に泣いた彼の唯一の救いは、施設の図書室の本を読むことだった。
現実と異なる想像の世界が、彼のこころを癒した。
やがて自らの豊かな想像力を悪用するようになった彼は、念入りに練った経歴詐称を操るペテン師となっていた。
たとえそれが盛りに盛ったウソであっても、注目され、評価されるのが嬉しかった。
そしてある日、ひとりの初老の男性に出逢った。
その男は、すぐに彼のウソを見抜いたが、彼を責めることなく、
「本当の君のことが知りたい。」
と言った、繰り返し、繰り返し。
盛った彼ではなく、盛る前の彼に、心からの関心と愛情を抱いたのである。
「本当のオレには何の価値もない。」
と言いながら、泣き崩れるシーンには、私も思わず胸を打たれた。
なかなかやるな、この脚本家。
寄り添われずに育てば、自己の存在価値なんてないものと思うようになるに決まっている。
それでも生きて行くために、身につけたニセモノの自分。
それで得られる、薄っぺらな存在価値がある。
でもさ、そんなものじゃなくて、そのままの自分に、本当の存在価値を感じたいじゃないの。
こういう脚本に出逢うと、ちょっと嬉しくなる私でした。