昔、外来に来ていた青年が村上春樹の小説をよく読んでいた。
よく話題に出るので、その人を理解するために、私も十数冊ほど読んでみたことがある。
それでも全著作を読んだわけではないので、話題に出て来た作品について、知っていれば知っていると言い、知らなければ知らないと言って話を続けていた。
ある日、彼がボソッと言った。
前に通っていた精神科の先生は、村上春樹のことを知っているというので話していたけど、実は解説記事を読んだことがあるくらいで、1冊も読んだことがなかったんだよね。
それがわかったときの彼の失望が目に浮かんだ。
読んだことがないなら、ただそう言えばいいのにね。
やっぱり、ウソはいかんです。
特に、面談という大事な場面でそれはいかんです。
知らないことは知らんでいいんです。
それよりも何よりも、大切な話をしている人に対しては誠実でなければいかんです。
クライアントよりも自分の虚栄心=知ったかぶりの方が大切なのはいかんです。
誤解のないように付け加えるならば、
クライアントが関心を持っていることを全部セラピストも知るべきだ、と私は思っていない。
また、クライアントが関心を持っていることをセラピストが知ろうとすることは、クライアントに媚びを売るためではない。
もしそれがクライアントの治療や成長に必要だと思ったならば、そうすればいいだけのことである。
昔、児童専門外来をやっていた頃、スーパー戦隊ヒーローが好きな男の子が多かった。
ゴレンジャー以降のスーパー戦隊ヒーローを知らない私は、毎年のように名前が変わる〇〇レンジャーや〇〇マンなどに付いて行くのにヒーヒー言っていた。
そこで途中からは、「わからないから先生に教えて。」と子どもたちにご教示願うことにした。
流石に、スーパー戦隊ヒーローに子どもたちほどの関心を持てなかったわけであるが、子どもたちには大いに関心があった。
それで良かったのである。
それがあればウソも虚勢もない。
結局、真実は簡単なこと。
人間として正直にいきましょ。