「赤ん坊はまだはっきり、目、耳、鼻、いろんなことがはっきりしません。そのときに、一番最初にはっきりして感じるのは、この肌、接触、肌なの。だから、非常にその接触が大事なんです。
その接触が大事なんだけども、近頃はどうかというと…日本の女の人も…授乳をしますと…胸の…形が悪くなるわけ。だから、したくないでしょ。そうすると、授乳をしなくて人工栄養をやるわけね。子どもにとってはね、お母さんの肌というものを感じないわけ。まずお母さんの母乳を知らない、母乳を飲むことができない。どんなね、人工的な素晴らしい栄養ができても、母乳に勝るものはないです。…
大体ね、人間誰でも、赤ん坊でもそう、大きくなっても、あなた方、わかるでしょ。お腹が減ったときに一番イライラするね。…この飢えと渇きと、そういうものは、みんな人間をイライラさせるの。
そういうのと同じように、赤ちゃんも、本当の意味で、良い母乳を与えられると満足するんだけども、そういうものが与えられないとイライラするわけです、ね。…
それで、もうひとつ…こうやって今度は…肌に付いて、母親の肌をしたときに、母親の胸のあったかさを感じますね。ここらの男性に訊いてごらんなさい。奥さんの胸に、自分の顔を寄せたときに、なんとも言えない安心感を持つんだから。どんな禿げたお爺さんでも(笑)。…俺はそんなことないよ、なんて言うかもしれないけども、しかし、それはやはり、奥さんの温かいね、胸の中にこうやって、なんとも言えない、それは、安心感を持つの。良いですか。女性はそれに自信を持って下さいよ。良いですね。
その元はどこにあるかというと、赤ん坊のときにですね、お母さんの胸に抱かれて、ほの温かく、本当に、お腹の方もいっぱいになって、あったかくて、良いですか、気持ち良くフーッと眠った。この、なんとも言えない安心感、あったかさ、満足感。こうしたものが一番、この、基礎になってる。これが人間の安心感、ね。そういうものの元になってる。…

あなた方は若いから…第二次世界大戦っていうのを…ご存じないかもしれない。…あのときの若い、例えば、特攻兵とか、十八か十七の子どもも行きました。その子どもが出て行くときに、『お母さん。』と言って出て行ったもんです、ね。これから死ぬ前に、最後に言った言葉は、みんな『お母さん。』ですよ、ね。それぐらいね、子どもにとって母親っていうものはね、自分の本当の安心の源になるんです。…
で、良いですか。あなた方は、そういう生命(いのち)、新しい、若い、若々しい、生まれたばかりの、しかしながら弱い、その生命(いのち)に対して、本当に安心感を与えるのは、あなた方だっていうことだ。」(近藤章久講演『心を育てる』より)

 

母乳が与えるもの。
ひとつには、飢えと渇きを満たす栄養。
そしてもうひとつが、触れる胸から感じる安心感。
これが我々の原体験にある。
世のお母さんたちは、どうぞどうぞ我が子たちにその体験をたっぷりさせてあげて下さい。
そして、本格的な寒さがやって来るこの季節。
あったかいものを食べて、肌触りの良い布団にくるまってぬくぬくと眠るときの、あの幸せな感じの中にも、そんな物理的なものだけじゃない、あのときの体験の名残りが含まれているかもしれませんね。

【追伸】それにしても「禿げたお爺さん」の「禿げた」は要らないと思います、近藤先生。
 

 

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