以前、私の外来にある夫婦が来られていた。
きくと最近、毎日のように諍(いさか)いが絶えないという。
理由を尋ねると、互いに
生真面目な夫婦同士が相手の些細な言動の至らなさを許せず、相手を裁いて、責め立てているのであった。
夫婦喧嘩は犬も喰わない、という通り、諍いの一つひとつを取り上げて仲裁を付ける気はさらさらないが、眉間に皺を寄せている二人の顔を見ているとおかしくなって吹き出してしまった。

怪訝な顔で私を見ている奥さんに言った。
「奥さん、あなた、元々調子者ですよね。」
最初、呆気に取られていたが、やがて笑顔になった。
「ええ、まあ、そうですけど…。」
つられてご主人も笑っている。
「それなのに、育っていく過程で後から生真面目さを埋め込まれちゃったんですよ。ホントは違うのに。その後から付いた生真面目さが出て来るとご主人を攻撃しちゃう。」

そして今度は、横で笑っているご主人の方に向き直ってこう言った。
「ご主人も笑ってますけど、あなたも元々調子者ですよね。」
これまた最初は呆気に取られていたが、すぐに笑顔になる。
「ええ、まあ、そうです。」
今度は奥さんがご主人の肩を突(つつ)いて笑っている。
「それなのに、ご主人もまた育っていく過程で生真面目さを埋め込まれてこんなになっちゃった。ホントは違うのに。その後から付いた生真面目さ出て来ると奥さんを攻撃しちゃう。」
奥さんが、そうだそうだ、という顔をして見ている。

あのね、これは私の想像ですけどね、二人が出逢われたとき、ホントはお互いの調子者のところに惹かれたんじゃないですか?
生真面目に、窮屈になりやすい自分が、ああ、この人と一緒にいたら、のびのびと楽な気持ちになれると。
そこに惹かれ合って一緒になったのに、後から埋め込まれた生真面目さの方を発揮して、互いに攻撃し合ってどうするんですか。
元の調子者に戻って、一緒に笑って暮らしましょうよ。

二人は互いを見て照れ臭そうにしていた。
夫婦善哉(めおとぜんざい)である。

これは、この二人が本来どういう人間であるかを観抜けたから、言えたことであった。
そこを見損なえば、大ハズレのになる話である。
「本来の自己」というのは、こういうときにも役に立つ。

 

ちなみに、このお二人は精神科的には統合失調症の診断がついている方々であった。
今、統合失調症という診断名を聞いて、この二人に対する見方が変わった方は、この二人を人間としてではなく、統合失調症として見てしまったのかもしれません。

 

 

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