テレビで海外の獣医番組をやっていた。
ある牧場に呼ばれて馬の治療にやって来た女性獣医師について、牧場主が「お昼休みに連絡したら、お昼抜きですぐに来てくれたんです。」と感謝していた。
これが臨床現場における当たり前の“感覚”だと思う。
かつて精神科病院に勤務していた頃、まさに昼休みに、病棟から、私の受け持ち患者さんが発熱してノドも痛そうだから診察してほしい、と連絡があった。
気を遣った看護師さんは「先生の食事が済んでからで良いですよ。」と付け加えた。
今この瞬間、ノドが痛くてしんどい思いをしている患者さんがいるのに、のうのうと食事を摂っていられる神経は私にはない。
すぐに病棟に行って診察して薬を出した。
誤解のないように。
自慢話をしているのではない。
また、全ての医師、獣医師がそうすべきである、という“べき論”を言っているのでもない。
人間としての、当たり前の、フツーの“感覚”の話をしているのである。
そういう感覚があれば、例えば、受け持ち患者さんが多く忙しくヒーヒー言っている医師であれば、しっかり食べて栄養を付けてから診察した方が良い。ゼリー飲料をチューッと吸いながら、バナナをもぐもぐ食べながら病棟に駆けつけてもいい(感染注意)。
ただ気持ちの中で、一刻も早く楽にしてあげたいな、という素朴な思いがあるかないかが重要なのである。
すべては“気持ち”の問題、“姿勢”の問題。
そもそも医者が低血糖や脱水で倒れたら洒落にならないからね。
テレビ番組でそのシーンは放映されなかったが、診察後にその女性獣医師がちゃんと昼食が摂れたことを願った。