玄関先の庭を掃除していたら、茗荷(みょうが)が驚くほど勢力拡大していることに気がついた。
植えた覚えはないので、前住者が残した球根から生えて来たのかもしれない。

茗荷と言えば、思い出すのが釈尊の弟子の一人、周利槃特(しゅりはんどく/チューリパンタカ)のことである。
大変に忘れっぽく愚鈍であったため、自分の名前さえ忘れ、自分の名前を書いた名札(幟(のぼり)という説もあり)を背中にしょって、名前を訊かれる度に背中を指さしていた、と言われる。そのため、仏道修行も進まず、諦めかけたときに、釈尊から「塵を払い、垢を除かん」と唱えながら掃除をするよう言われ、一所懸命に行ったが、それでも当初は箒(ほうき)さえも忘れる始末であったという。しかし、めげずに何年も何年も掃除を続けていたある日、折角綺麗にした所を子どもたちに汚され、思わず怒っている自分に気がついた。ああ、払い除くべきはこころの三毒=貪(とん:むさぼり)、瞋(しん:怒り)、癡(ち:無知)であった、と気づき、遂には阿羅漢(あらかん:修行者の到達し得る最高位)に至った(十六羅漢の一人)と言われている。

その周利槃特が亡くなった後、墓から名の知らぬ草が生え、それを上記のエピソードに因(ちな)んで「茗荷」(=名を荷(にな)う=名前を背負う)と名づけ、茗荷を食べると周利槃特のように物忘れがひどくなると言われるようになったとやら。
だから茗荷を見て、周利槃特のことを思い出したのだ。

そしてまた、周利槃特の掃除する姿にヒントを得て作られたキャラクターが、『天才バカボン』の「レレレのおじさん」である、という説がある。
レレレのおじさんが何を掃いているかを思うと
「おでかけですか? レレレのレ―!」
も意外に深いのかもしれない。
「あなたはもう三毒を掃き終わりましたか? レレレのレー!」

そして今日、玄関先を箒で掃きながら茗荷に気づいた私は、周利槃特の話を書かないわけにはいかんな、と思ったのでありました。

これからは、こころの掃除を思いながら、普段の掃除を致しましょう。


 

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