「私は医者として患者が治るときに、そこに単なる薬だとか医者の手当てだとかいう以上に、その患者に深く動いている、患者の命に働きかけている深い強い力を感じる時があります。これが正に患者を治すものであります。そういう力を我々医者は信じて仕事に従うことができるのです。治るということ、これは医者の力でもありませんし、薬の力でもありません。それを超えたもっと深い力が働いていることを、もしその医者が謙虚に自分の何十年かの治療経験を顧みるならば、気がつくことだと思います。私はそういうことを本当にこの何十年かの治療生活で感じています…」(近藤章久講演『一味の世界を目指して』より)

近藤先生は長年多くの患者さんの治療に携わって来られました。
中には非常に難治な方が劇的に回復されたこともありましたが、一度として「自分が誰々を治した。」という表現をされたことがありませんでした。
「私が誰々を治した」ではなく、「誰々の命に働きかけている深い強い力がその人を治した」のであり、それが近藤先生にとって偽らざる実感だったのです。

よく先生は「邪魔しなければ名医」と笑って言っておられました。
藪(やぶ)な医者は、賢(さか)しら立って余計なことを言い、また余計なことをして、治ることの邪魔ばかりしているのです。
まずそれがなければ名医。

私は先生に申し上げました。
「それでは少しでも力になれたら大名医ですね。」
そしてその「少しでも力になる」というのは、余計なことをするのではなく、
患者の中に働いているそ
の力を感じて信じること、
そして、その力に対して心の中で合掌礼拝しながら関わること。
そしてさらに、医者自身の命を通して働いているその力に促されて、あるいは導かれて、何某(なにがし)かのことを言う、あるいはするのみです。

これが「治療」ということの本質です。
 

 

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