長年、大企業の社長秘書を務めているAさんは、非常に優秀な方である。

社長のスケジュールを完璧に把握し、社内でこなすべき業務、会議などはもちろん、社外への移動手段、会議・折衝の段取り、食事・宴席、宿泊の手配などをも漏らすことなく準備し、さらにA案がダメなときはB案、それもダメなときはC案と代替策も何枚腰かで準備している。
そのため、“できる”秘書として、周囲から全幅の信頼と評価を得ている。

しかし、である。
一旦社を離れ、プライベートなことになると、彼女のやり方はガラリと変わる。

無計画、思いつき、行き当たりばったり、出たとこ勝負の連続なのである。
例えば、フレンチ料理を食べたいと思ったとする。
大して下調べもせず、大体こんなもんか、で出かけて行く。
案の定、お店は定休日だったり、満席だったりする。
そこで全く反省も後悔もなく、あたりの他の店を物色する。
あのイタリアンの店、良さそうじゃん。
ふらりと
入ってみると実に愉快なお店で、いつの間にやら会話が弾んで大盛り上がり。
最後はシェフまで出て来て、ワイン1本サービスしてくれた。

隣のテーブルの客たちとも仲良くなり、今度、ハンググライダーに連れてってもらうことになった。
そんな展開は“予定通り”の人生には起こらない。
もちろん、時には“壮絶な失敗”もあるが、それもまた人生の彩りとして面白がっている。

能率、効率を追求し、周到な準備によって全てをコントロール下において、予定通りの目標を達成する。
良いか悪いかは別にして、そんなことに価値を置く現代日本が存在する。
能率、効率を汲々と考えず、なるようにおまかせして、予想外の展開を楽しむ。
そんな生き方も存在する。

冒頭にAさんのことを「非常に優秀な方」と申し上げた。
それは現代に生きながら、前者の生き方に呑み込まれず、後者の生き方ができているからである。
人生の本当の“豊かさ”がどこにあるかを彼女は感じ取っている。

 

 

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