ある和食店で食事をしていたとき、そこの板前さんが東南アジアの某国の日本料理店で働いていた頃のことをお客さんに話していた。
その店の厨房で洗い物をするために雇われていたのが中近東某国出身の若い女性たちであったが、これが全く仕事をしない。
ずっとしゃべっているか、スマホをいじっているのだという。
で、現地のシェフはどうするかというと、その子たちに向かって、耳をつんざくような声で怒鳴り倒し、恐怖によって仕事をさせていた。
それを見て、流石にそれはおかしいと思った板前さんは、できるだけ彼女らに優しく接してみたが、そうするとあからさまに舐めて来て、さらに仕事をしないのだという。
その態度に嫌気がさし、また彼女らに舐められている自分の姿を嘲笑的に眺めている周囲の視線も気になった板前さんは、意を決して大声で怒鳴り上げ、ゴミ箱を蹴りまくって威嚇したのだという。
そうすると確かに彼女たちは働いた。
しかし、そうこうするうちに、こんなことを続けていたら、人間が荒(すさ)んでしまう、と感じた板前さんは、早々に日本に帰国したのだそうだ。
聞くでもなく聞こえて来た話だが、この板前さんは人間として感覚がマトモな人だと思った。

しかし、宿題が残された。
そんなとき、あなたならどうするか。私ならどうするか。
優しくすれば舐められる。
かといって、恫喝するのは最も安易な方法である。

近藤先生の姿が浮かんだ。

「寛にして畏(おそ)れられ、厳にして愛せらる」(朱子『宋名臣言行録』)
 優しいのにおっかない。厳しいけれど皆から愛される。

極めて難しい道であり、到達するのに長い年月を要する道ではあるが、
それ以外に正解はないと思った。

 

 

 

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