かつて児童専門外来を担当していた頃、3歳児健診で発達の遅れを指摘された子どもたちが精密検査のために受診していた。
親御さんたちも指摘されたので已む無く受診に来られるわけで、私も非常に気を遣い、特に自閉症スペクトラム(当時は自閉症)の診断を下す際には、子どもたちの未来のために正確な診断が必要とわかっていても、なかなかに気の重い仕事であった。

その際、親御さんに伝えて行く大事なことに関しては、とてもこの小欄では書き尽くせないが、今回はその中のひとつ、将来の「自立」について特に記しておきたい。

診断が下ったとき、親御さんはショックに打ちひしがれながらも、私(たち)がこの子の面倒を一生みなければ、思われる方が多い。
そのため、このことだけははっきりとお伝えするようにしている。
「ご心配でしょうが、お子さんが大人になったときに自立していなければ療育は失敗ですよ。」
誤解のないように付け加えるならば、大人になって親と同居してはいけない、と申し上げているわけではない。
いつでも一人で暮らせる力を持った上であれば、親との自宅同居も全然OKだと思う。
要は、成人したときに自立して暮らせる力を身に着けることを今からイメージして(そこから逆算して)療育を始めましょうね、ということである。

御存知のように、「この子を残して」問題は昨今、精神障害者家族会の中で大きなテーマとなっている。
そう。確率的に言えば、親御さんの方が先にいなくなるのである。

実は、若い世代に発症が多い統合失調症や双極性(感情)障害(躁うつ病)などの場合でも、発症当初から本人や親御さんと将来の「自立」をイメージして治療プラン、ライフプランを立てて行くという発想が遅れて来た歴史がある。
私は最初からそういうイメージを本人、家族と共有しておくことは、とても大切だと思っている。
そうでないと、あっという間に5年、10年、〇十年が経ってしまう(ホントに早いですよ)。

本人には本人の人生がある。
親御さんには親御さんの人生がある。
兄弟姉妹にも兄弟姉妹の人生がある。
みんなの人生は同時進行だ。
どの人生も豊かなものであっていただきたいと願う。

そして最近ようやく必要な社会資源も整って来ている。
かつては医療機関しかなかったものが、住むところ、働くところ(働く練習をするところ)、集うところ、そしてまざまな支援制度や応援部隊も増えつつある。
次第に家族ではなく地域がサポートする時代が開けつつあるのだ(まだ地域差はあるけどね)。

そして最後に付け加えておきたいのが、「自立」生活が魅力的なものであってほしい、ということである。
そもそも「自立」ということが「ねばならないもの」ではなくて「是非是非そうしたいもの」であってほしいと心から願っています。



 

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