昨日と逆の話。

ある五十代の女性が、自分の嘘っぱちで演技的な生き方を変えたいと言って面談に来られた。
それが彼女の酷薄な生育史由来することは明らかだった。
長年沁み付いた心の垢を取って行くことは容易ではなかったが、覚悟を決めた彼女は果敢に取り組み、一枚一枚薄紙を剥がすようにニセモノの自分を脱ぎ捨てて本当の自分を取り戻して行った。
最後の大きな山を越えたとき、なんだかピカピカの赤ちゃんになったような気がします、と言って彼女は笑った。

そして意外なことが起こった。
面談に来たことのない(即ち、私が一度も逢ったことがない)家族にも変化が起き始めたのである。

夫が優しくなりました。
息子が荒れなくなりました。
娘が泣かなくなりました。
みんな以前よりも正直になりました。
本音の話ができるようになりました。

そんな場合もある。
それはいくつかの機が熟したときに起こる。
特に家族が敏感で内省的なときに起こりやすいかもしれない。

こんなとき、思いもしなかった余禄を戴いたようで
私までとてもとても幸せな気持ちになる。

そう、私まで戴いたのだ。
何のことはない、クライアントから、クライアントの家族から、私が戴いたのである。
いや、クライアントも、クライアントの家族も、私も戴いたのである、と言った方が正確かもしれない。
誰が与えたのか?
そんなのは言わなくてもわかるでしょ。

こういうことが起こるから、この仕事はやめられないのである。
 

 

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