某大企業の部長職の男性。
大企業の部長をやってるなら羽振りも良いだろうと思われるかもしれないが
仕事では、人一倍働いて来たにもかかわらず、方針の変わった会社から冷遇され、窓際部署に島流し(本人談)。
さらにプライベートでは、長く付き合っていた彼女から、今になってあのことこのことをなじられ、裏切られた感いっぱいの別離。
そんなひどい失意のうちに眠れなく食べられなくなり、精神科外来受診となった。
訊けば、受験も就職も周囲にどう思われるかで決めて来たという。
相手からの評価によって右往左往する、そんな典型的な他者評価の奴隷の男性であった。
そこを根本的に超えて行くチャンスにできるか否か。

わずかな薬と精神療法で治療を始めたが、なかなか本音のところで他者評価の奴隷を脱し切れない(他者評価に依存している自分を本音のところで情けないと思っていない。やっぱり他者評価してもらいたい)。
来院される度に愚痴と溜め息と不定愁訴の雨霰(あられ)。
それがある日、意気揚々としてやって来られた。
別の大企業にヘッドハンティングされて、働くことになりました。好待遇です。
すべての症状はたちどころに消え、見たことのない笑顔。
ないがしろにされて落ち込んでいたのが、今度は評価されて大喜びだ。

それが今のあなたの本音なのね。
この人が自分に埋め込まれた他者評価の奴隷の問題と向き合うのは、また先に延びてしまった。
喜ぶあなたに今野暮なことを言うのはやめておこう。
終診と打ち込んだ電子カルテを閉じながら、ちょっと残念な気持ちになった私です

これが日々の臨床である。
どちらが良いも悪いもない、そんなところが「情けなさの自覚」と「成長の意欲」を求める八雲総合研究所との違いなのであります。

 

 

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八雲総合研究所(東京都世田谷区)は
医療・福祉系国家資格者を対象とした人間的成長のための精神療法の専門機関です。