『生きることはうたうこと』

「やまとうたは、ひとのこころをたねとして、よろづのことのはとぞなれりける。

世中にある人、こと、わざ、しげきものなれば、心におもふことを、見るもの、きくものにつけて、いひいだせるなり。

花になくうぐひす、水にすむかはづのこゑをきけば、いきとしいけるもの、いづれかうたをよまざりける

ちからをもいれずして、あめつちをうごかし、めに見えぬおに神をもあはれとおもはせ、をとこをむなのなかをもやはらげ、たけきもののふの心をもなぐさむるは、うたなり。」

(『古今和歌集』仮名序)

 

[意訳]

やまとの歌は、人の心を種として、たくさんの言葉の葉が萌え出(いで)てできたものである。

世の中の人は、すること、なすこと、たくさんある中で、心に思うことを、見るもの聞くものに託して、歌を詠(よ)むのである。

花に鳴くウグイス、水に住むカエルの声を聞いていると、この世に生きているもので歌を詠まないものがあるのであろうか、と感じる。

はからって詠(うた)っているわけでもないのに、天地を動かし、目に見えない存在にもしみじみと感じさせるものがあり、男女の仲をも和(なご)ませ、荒々しい武士(もののふ)の心をも慰めるのは、歌である。

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