ある夜、出先でラーメン屋に入った。
魚介系のダシの効いた旨いラーメンだった。
ラーメンができるまでの間、水餃子を肴に冷酒を傾けていると、
カウンターの横の席にカップルが座った。
推定八十代の身なりのきちんとした痩身の老夫婦である。
若い客の多い中で、却ってそのカップルは目立った。
二人はラーメンをひとつずつ注文し、やがて目の前に置かれた。夫は黙ったまま自分のメンマを半分、妻のお碗の中に入れ、妻は自分のチャーシューの半分と麺を少し夫のお椀の中に入れた。
長年知ったる好みと量なのだろう。
寡黙に食べる二人。
妻が夫のために、カウンターに置かれた重いポットを持ち上げてコップに水を注ごうとしたとき、スッとポットを取って、夫は妻と自分のコップに水を注いだ。妻には半分ほど、自分にはなみなみと注いで、ゆっくりと飲み干した。
やがて食べ終えた二人は立ち上がると、妻が支払いを済ませ、夫が「ごちそうさま」と静かに言い、店を後にした。ふと目をやると、引き戸のガラス越しに手をつないで歩き去る姿が見えた。
「良い夫婦だなぁ」
11月22日の街頭インタビューで、夫婦長続きのコツは?と訊かれて「忍耐です」と答える輩(やから)の多さにはウンザリしたが、今日は忍耐なんぞを超えて本当に信頼し合って生きている人間二人の確かな有りようを観た気がした。