店の前に「ホタルイカとほうれん草のパスタ」の手書き看板が出ていた。
うまそうじゃないの。
腹も減ったお昼の12時半。混んでるか、と思いつつ店の中へ。
…客がいない。
「いらっしゃい。」水とおしぼりを持って、震える足取りで出てきたのは、齢(よわい)八十と思(おぼ)しき爺さま。
間違いなくハイリスク・パターンである。
乗りかかった船だ、今さら後には引けねぇや。
「ホタルイカとほうれん草のパスタ。」
と注文すると、爺さまは満面の笑みですごく嬉しそう。
余程、自信があるのだろうか。
待つこと十分ほど、何故か厨房から電子レンジのチーンという音が響く。
「お待たせしました。」大盛アツアツのパスタが出て来た。
まずパスタの上に乗ったホタルイカを口に入れる。
まずっ!ていうか、生臭さっ!
爺さま、パスタだけチンして、ホタルイカを後のせしたろうがっ!
しかし、ハイリスク承知で注文した以上、今さら文句は言わないのが勝負の掟(そうなのか?)。
負けるもんか!
…と、次の犠牲者、いや、客が入って来た。
爺さまが客のオーダーを取りに行っている隙に、手持ちのビニール袋にホタルイカを全部放り込み(おいおい勝負じゃないのか!)、口を縛ってバッグの中へ。
残りのパスタを見ると、まだ生臭い移り香が漂う。ここからが勝負だ。
テーブル上を見ると、塩とコショウとタバスコと粉チーズがある。
十分だ。
ここでこそ、郡山であのまずいトマトラーメンを食べ切った際の経験智を発揮するときだ。
全投入〜!
…そしてタバスコとチーズの味になったパスタを完食したのである。
乗り切った…。
そしてホタルイカとほうれん草のパスタを前にして、さっきからすがるような目で私を見ていた、もう一人の客を見殺しにして、私は店を後にしたのてあった。
すまん。死んでくれ。
♪ちゅるちゅるちゅ〜(『荒野の用心棒』のテーマ)
胃薬だけは飲んどくか…。