『葉隠』『兵法家伝書』の連載が終わり、ぽかんと時間が空いた。
いつの間にやら、本棚から宮本武蔵『五輪書(ごりんのしょ)』を取り出し、手に取っていた。
こりゃあ、取り上げるしかないな。
というわけで今回からは、武士道精神を扱ったものの三冊目、柳生宗矩『兵法家伝書』と並び、近代武芸書の双璧とされる、宮本武蔵『五輪書』を取り上げる。
まずは引用・解説を始めるに先立ち、本書の背景について触れておきたい。
宮本武蔵は、二天一流を創始した江戸時代の剣術家であり、十三歳で初めて決闘に勝利して以来、数々の合戦に参陣したり、京都の吉岡一門や巌流島での佐々木小次郎などとの決闘(生涯で六十余回の決闘)を制したという。
晩年は熊本藩・細川氏に招かれ、当地で没した。
『五輪書』は最晩年に執筆され、武蔵自身は『地水火風空之五巻』『五巻』と呼んでいたという。
また、彼の才能は剣だけでなく、水墨画や工芸品においても発揮された。
武蔵の生涯は、映画やテレビ、舞台などで繰り返し取り上げられてきたが、現代人の武蔵に対するイメージは吉川英治の小説『宮本武蔵』によるところが大きい。
では、『五輪書』に入る。
まず「地之巻」から。
「道理を得ては道理をはなれ、兵法の道に、おのれと自由あり。おのれと奇特(きどく)を得、時にあいてはひやうしを知り、おのづから打ち、おのづからあたる、是(これ)みな空(くう)の道理也(なり)。」(地之巻)
(真実を得たならば、(その得た)真実を離れ、兵法の道には自然と自由がある。自然と特別な力を授かり、その時々に当たっては(絶妙の)タイミングがわかり、自然に剣を打ち込んで、自然とそれが当たるのである。これはすべて空の真実である)
道理を得るとは、頭でわかることではなくて、真実を体得するということである。
そうなると、考えて気をつけてやっていることではないため、考えて気をつけてやることから離れて、自分を通して働く力のままにおまかせとなり、そこに自ずとなるようになっていく絶対自由がある。
そうなれば、自分個人を超えた力も与えられるであろうし、その時々において斬り込むタイミングも自ずとわかり、自然に斬り込み、自然にそれが入るようになる。
ここでは「空(くう)」と書いて「働き」と読むということをお伝えしておきたい。
「色即是空、空即是色」(『般若心経』)の「空」もまた同じ。
(形あるものは働きの表れであり、働きが形となって表れる)
アインシュタインの「E=mc2 」もまたその消息を表わしているのである。
地水火風はいずれも空の展開なのである。