「人間に発達した大脳の新皮質は、体の中、生命の奥深くからくる信号を翻訳して、生命の呼びかけに答えるというのが、本来の働きです。つまり大脳は、人間が、人間らしく生きるために働いてくれるものなのです。自分の生命を見つめて、自分を認識し、どうしたら生き生きとこの生命を伸ばすことができるか、その目的や方向を定め、そして努力する、そういう働きをするものです。…
しかし、現代の社会では、営利が中心で、何でも利益があればよいと考え、利益を目的に追及し、その象徴であるお金が何よりも価値があると考えられています。そのために、私たちの大脳の新皮質は、いかにしてお金をもうけるかという方向に集中して、その目的に使われています。簡単に言えば、人間の特質である新皮質を、功利主義のために使用し、発達させていると言えます。そして、功利のための能率主義が強調されます。…
よって、人間に与えられた新皮質の発達は、方向を間違えると、人間の生命を破壊することになる場合もあるのです。…
大脳の新皮質…が本来の働きを発揮するためには、内側に向けられなければなりません。内なる生命の呼び声を認識し、それを判断し、それを生かす方法を考え、企画し、新しい生き方を創造し、たくましい意欲をもって生きることです。そして、自分自身に与えられた生命の尊さに対して深い畏敬の愛情を感じることです。これが最も基本的で、自然な、本来の新皮質の働きです。したがって、教育は、根本的には、それぞれの子どもに宿る生命への畏敬、尊重を基礎として、こうした方向への新皮質の発達を促進することに、その本質があるわけです。
そして、このように新皮質が働くためには、内からの声、生命の呼ぶ声を感得することが必要です。これを感得する感覚を、私は“内部感覚”と呼んでおきます。…
内部感覚というと体験した人にはそのまま、ああそうかとわかるのですが、普通の人の場合、なかなかピンとこないようです。…
しかし、普通の日常生活でも、『こうしたら、とても、スッキリして、気持よくなった』ということがあります。それは自分の生命の促しを内部感覚が感じて、自然に応じた処置をとったからです。私たちは、自らの内部感覚によって、考えたり行動したりすると、何となく気持がよくなるものです。
また、それは体の内から湧き起こってくる感じ…その意味で、内部感覚は、やむにやまれない感じと言ったらよいかもしれません。
やむにやまれないということは、いわば必然ということになります。しかも、内部感覚に基づいて行動すると、気持よく自由な気持になります。そこで、必然と自由が一致するわけです。自分の内なる声の促しによって行動する時くらい、人間が自由を感じる時はありません。他人の意見や外部の評価などによって、乱されない落ち着いた自由を感じます。…
さて、これまで生命に関連して述べてまいりましたが、生命は自分一箇の個人に限られるものではありません。人間のそれぞれが生命を享(う)けているのですが、それらのすべてがたとえて言えば大きな自然の生命の流れの中に、生かされ、そこにそれぞれの生命の源をもっているのだと思います。
その大きな流れは、宇宙的な力と言ってもよいと思います。その力は、私たちそれぞれの生命として現われますが、私たちばかりでなく、すべての無生物・生物をひっくるめて、いろいろな存在の形として現われているわけです。石となり、水となり、あるいは、植物とか動物という生物の形をとったり、いろいろな形でこの世界に現われています。」(近藤章久『感じる力を育てる』柏樹社より)
最後のところで、近藤先生がここまで生命(いのち)について触れられるのは珍しいのですが、非常に重要なことを述べておられると思います。
生命(いのち)というのは、狭い意味での生物学的生命のことを言っているのではなく、全存在を存在させる「働き」のことを言っているのです。
そして、働きが時に花し、働きが時にあなたし、働きが時に私し、百花繚乱の世界が展開する。
その働きを内部感覚でしっかりと感じ取り、その働きに催されるままに生きる。
それを「生かされる」といい、「生きる」というのです。
そのために、まずは内部感覚を磨いて行きましょう。
そしてその内部感覚を磨くために、内向きに感じる力を磨いて行きましょう。
毎日の生活の中で、あなたの心の奥の奥の奥で本当に何が起きているかを感じて感じて感じて行く(決して考えてはいけません)ことから始めましょう。
そしてそのガイド役は、もし宜しければ、どうぞ私におまかせ下さいな。