「人間くらい残酷なことに頭脳を使っている生きものもいないなと思う。…
だいたい人間というのは自分の利益を考えている動物です。…自分のことを考えることがいちばん先です。…しょせん弱肉強食。強いのが勝つ。けれども、僕みたいな変な人間でも、どうやら生きているところをみると、必ずしも弱肉強食でなくても生きられるということの証明かもしれないから、まあ、そういうことをしなくても人間はちゃんと生きられるということも、ひとつみなさんにいっておきたいと思います。…
私はみなさんに豊かな道を歩いていただきたい。豊かとは何かというと、悲しいときには悲しみ、よろこばしいときにはよろこび、苦しいときは苦しみ、ほんとうに人間として、本音で感じた生活を『豊かな生活』と私はいいたいと思います。そこに自分が生きてることだと思います。…
人を裏切る苦しみ、また自分が信じた人に裏切られる悲しみも、じっと心で味わってもらいたいものだと思うのです。…
私の経験でいうと、愛情に恵まれなかった人がほんとうに自分に愛情を持ってくれる人に出会ったときに、そこで感じる感動というものはすばらしいものであり、深いものであることも事実です。ですから、自分が不幸であったことをくよくよと考えないことです。苦しみを通り、悲しみを通って、そしてほんとうの愛情に接した場合にやはりそこには、いうにいわれぬ深く身に感じる愛情の、深さというもの、ありがたさというものがあるように思います。」(近藤章久『迷いのち晴れ』春秋社より

 

嬉しいこと、楽しいことけじゃなく、悲しいこと、苦しいことを感じて生きて行くことも、人生の豊かさであるということ。
特に、人を裏切る苦しみ、人に裏切られる悲しみについて取り上げているのは、やはり流石、近藤先生だと思う。
闇を経験したからこそ感じる光の明るさ、温かさがある。
愛されずして、苦しみ・悲しみを通って来たからこそ感じる、本当の愛の深さ、有り難さがある。
そしていつか、凡夫の自力では不可能だけれど、自分を通して働く他力によって、誰かを愛することができたならば、それもまた人間として生れて来た本懐と言えるんじゃないかと思います。


 

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